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インタビュー by 柴田克彦

Jul 6th, 2018

Interview with author Mr. Shibata about the upcoming Japan tour with Sofia National Opera. (Japanese Only)

The Japan tour will feature Carmen and Turandot.

October 5 & 6 at Tokyo Bunka Kaikan will kick off the tour.

For more information, please visit this link (English Site)


ブルガリア国立歌劇場
10月5日(金)18:30 東京文化会館
10月6日(土)15:00 東京文化会館
〜公演情報はこちらから〜


音楽評論家 柴田克彦氏とのインタビューを紹介します。


面白く、美しく、観たこともないような「カルメン」

今秋のブルガリア国立歌劇場日本公演で「カルメン」指揮する原田慶太楼。
現在シンシナティ交響楽団とシンシナティ・ポップスでアソシエイト・コンダクターを務める彼は、「日本に生まれた日本人で、(日本のアカデミズムと無縁のまま)アメリカで勉強した後に、日本で指揮をしている」史上初にして唯一の存在だ。

1985年東京に生まれた原田は、幼少期からインターナショナル・スクールに通い、高校2年=17歳のときアメリカに渡った。
「元々ミュージカルのピット・ミュージシャンになりたかったんです。サックス、フルート、オーボエ、クラリネット、バスーン、ホルン、ヴィオラをやっていましたし、そもそもブロードウェイでは5つくらいの楽器ができないといけない。ならばアメリカで勉強しようと、ミシガン州のインターラーケンの芸術高校に入りました。ところが高校のとき交際を願った女性の母親から『世界的な指揮者になるのなら、娘と付き合ってもいい』と言われて、すぐに学校で教鞭を執っていたフレデリック・フェネルに指揮を学び始めました」
きっかけもさることながら、いきなり名匠フェネルに師事するあたりがひと味違う。しかも意欲的な行動はさらに加速する。
「インターネットの動画を見て、ゲルギエフ、テミルカーノフ、ビシュコフなどロシアの指揮者に惹かれ、高校を卒業した翌週サンクトペテルブルグへ行って、彼らが師事した名教師ムーシンの弟子に学ぶようになりました。アメリカで一般の大学に入ったのですが、長期の休みにアルバイトをして資金を作り、年に4~5回ロシアに行っていましたね。それを機にモスクワでも先生につき、20歳のときモスクワ交響楽団を指揮してプロ・デビューしました。さらにアメリカでは、ロリン・マゼールに弟子入り(いきなり電話してビデオを送ったとの由)し、彼の家に住み込んで、アシスタント生活をしました。僕は師匠に恵まれていましたね。そして2010年にタングルウッド音楽祭でレヴァインのアシスタントを務め、小澤征爾賞を頂きました。このとき病気のレヴァインの代役をドホナーニと二人で務めて、リハーサルなしでR.シュトラウスの『ナクソス島のアリアドネ』を指揮し、これが正式なオペラ・デビューになりました」

かような日本人離れした経緯を経て、前記のシンシナティのポストも今年3シーズン目に入った。またアリゾナ・オペラのアソシエイト・コンダクターを務めて同分野のキャリアも形成。その結果、日本からも声がかかるようになり、すでに東京フィル、東響、新日本フィル、神奈川フィル等に客演している。

ブルガリア国立歌劇場の「カルメン」は、2017年11月のプレミエから複数回指揮しただけでなく、プロダクション自体にも関わった。
「本番の半年以上前、劇場総裁で新演出を手がけるプラーメン・カルターロフとの会話から始まりました。『カルメン』の上演には色々なやり方がありますが、僕は最初に『今回はどうしてもレチタティーヴォ(を挟んで進行する版)はやりたくない』と言いました。その部分はビゼーの作ではないし、セリフの方が展開が早いからです。そこでレチタティーヴォを元に、ごく簡単なフランス語による台本を僕自身(彼は、英、仏、独、伊語が堪能)が書きました。そして4週間滞在して、最初のピアノ・リハーサルから立ち会い、歌手一人一人のフランス語を確認しました」

同歌劇場は元々地力があるので、首尾は上々だった。
「ブルガリアの歌手は、声が強くて体力的にもタフです。この国は青少年のコーラスが世界的に知られているように、歌の文化がありますし、オーケストラもブルガリアのトップ3の中で最上位。弦楽器の世界的ソリストを輩出していることもあって、弦が力強く、レベルはかなり高い。それに演奏経験が豊富なので、レパートリーを物凄く理解しています。カルターロフもオペラを熟知し、アイデアマンでもあります。しかもこの劇場はレパートリーが非常に多く、『リング』(全4夜のワーグナーの超大作『ニーベルングの指環』)を毎年のように上演しているんですよ」

今回の日本公演でも歌うカルメン役も要注目だ。
「ナディア・クラスティヴァは、カルメンを歌うために生まれてきたのではないかと思うほど、同役のスペシャリストです。この劇場でキャリアを積んだ後、ウィーン国立歌劇場のメンバーになり、パリ・オペラ座、スカラ座、METでも歌っています。もう一人のゲルガーナ・ルセコーヴァは若手の期待株。彼女も凄くいい歌手です」

本プロダクションは、他にない特徴を有している。
「当初から日本に持っていくことが決まっていたので、カルターロフは日本の文化をまじえたいと考え、能とギリシャ劇をミックスしたようなプロダクションを作りました。ステージの真ん中に円があって、すべてはそこで行われ、コーラスは全員真っ黒なコスチュームでマスクを被っています。『カルメン』を観慣れている人も皆驚くのは、第4幕前半のコーラスがオフステージで歌い、舞台上では第3幕の最後で故郷に帰った際のホセとミカエラのやりとりが再現されていること。カルメンは真ん中に立っていて、結構ドラマティックですよ。また全体的には、微妙に変化するライトによって美しく描かれています。観たことのないような『カルメン』を、これほど面白く美しくできるのかと感心させられますし、観れば絶対に何かを感じて頂けると思います」

かくして、この「カルメン」は現地でも大成功。チケットがすぐに完売したため、原田が振る公演は3から4に増え、彼がブルガリアを離れた後も「追加公演が合計15回くらい行われている」という。

それに何より「カルメン」自体が最高に魅力的だ。
「素晴らしいメロディとハーモニーばかりの2時間半。音楽の凄さは、オペラでは稀なオーケストラ用の組曲が作られていることにも表れていますし、皆が耳にし、誰もが口ずさめるようなメロディが次々に登場します。それゆえ初めて観るオペラとしても最適ですね」
最高の名作の注目の舞台に、ぜひとも足を運びたい。

柴田克彦(音楽評論家)

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